鈴鹿墨 日本伝統工芸の至宝
The making of: Suzukazumi
鈴鹿墨 日本伝統工芸の至宝
ベルリン森鷗外記念館特別展
場所:Luisenstr. 39, 10117 Berlin
開催期間:2019年7月23日〜12月18日
展示会特別ツアー:2019年8月8日(木)13時〜
三重県北部にある鈴鹿市は、人口約20万人を抱える都市だ。ドイツでは鈴鹿サーキットにおいて開催される「日本グランプリ」の街としてよく知られている。しかし、鈴鹿はF1レースだけの街ではない。ここには詩人であり森鷗外の友人でもある佐佐木信綱の記念館があり、多くの伝統工芸も息づいている。
こうした伝統工芸の代表が鈴鹿墨だ。墨匠、伊藤亀堂も自身の工房「進誠堂」を鈴鹿に構える。進誠堂は日本でも数少ない伝統的な墨工房のひとつで、ここでは職人が書道や墨絵に用いられる墨を手間ひまかけて作る。選び抜かれた材料で作られた墨はまるで至宝のようだが、書道家が研ぎすまされた状態で墨をすり、筆にふくませる時、墨はその姿を消し、新たな芸術へと形を変える。これが墨道だ。
ドイツにおいては中国や日本の書道に興味を持つ人が増えている。けれども、書道に欠かせない墨についてはほとんど知られていない。
墨には使用用途によって様々な種類があるが、基本は膠、煤、香料でできている。たいていの墨は黒だが、中には色のついたものもある。
本特別展においては日本の伝統工芸の舞台裏に焦点を当てた。それ自体が高度な芸術である墨の製造過程だけでなく、食品、衣服、建物、香料、役者用の化粧品といった墨の多様な使用方法についてもご紹介する。
日本最古の墨は奈良県にある正倉院に保管されている。この正倉院は、鈴鹿墨展とベルリン森鷗外記念館の接点だ。それというのも、鷗外は1917年から亡くなる1922年までの間、この正倉院を含む帝室博物館の総長を務めていたのだ。また、鷗外の作品も墨、硯、筆、紙という当時の知識人階級であった作家にとっての神器なしには考えられない。こうした意味でも、墨は鷗外と無関係ではない。
この展示の始まりは、キュレーター、ベアーテ•ヴォンデが2010年に三重大学において学術研究の目的で滞在したことがきっかけだ。ひょんなことから墨匠と知り合う機会を得て、この出会いが2017年の講演『文学と墨』、そして本展へとつながった。
本展の開催は進誠堂の皆さん、土屋邦恵氏、小川眞里子名誉教授、鈴鹿市の協力なしには成立しえなかった。この場を借りて心から感謝申し上げたい。
Video Suzukazumi ANA
MOG HP
https://www.iaaw.hu-berlin.de/de/region/ostasien/seminar/mori/aktuelles/suzukazumi
TO. Ms.Beate Wonde
この度は鈴鹿墨の展覧会のご案内をお送りいただきありがとうございました。
私たち書道に関わっている者でも墨の製法の詳細を知らない方も多く、画期的な
催事だと思います。
私自身は奈良の株式会社呉竹の工場を見学させていただき、自ら墨を作った事がございます。
日本において墨は奈良が有名(大きな会社があるので)ですが、鈴鹿は奈良に比べると小さな
昔ながらの老舗が多く日本人では知る人ぞ知る地域です。そこに注目されたことはすごいです。
ベルリン在住の国際書道連盟会員にできる限りお知らせしてみます。
日本は今梅雨で集中豪雨の災害地域もあり、東京もはっきりしない日が続いております。
Beate Wonde様もご自愛ください
國際書道連盟
国際部 蛭川止軒
國際書道連盟 国際部
蛭川止軒様
前略
私どもの新しい特別展案内に対しての早速の心温まるお言葉ありがとうございます。
目下この企画展の最終調整で忙しくいたしておりますので、簡単なご返事だけになります事をお許し下さい。
ご指摘のとおり、確かに奈良のとくに呉竹が有名であることは、私も存じ上げております。ただ、奈良の私の知り合いが亡くなって以来、直接にコンタクトをとる知り合いがいないことと、このような企画を共同で練り上げるには、ドイツと日本の二カ国間での作業ですので、資金だけでなく諸々の問題を解決しながらの作業になります。直接のコンタクトは、非常に重要なポイントです。今回のプロジェクトのスポンサーは、現時点では残念ながらみつかっておりません。私がどうしても立ち上げたい企画だったこととあいまって、目下の準備段階の資金は、全て自己負担になっています。
この企画のきっかけは、2010年に2ヶ月間の三重大学での日本研修滞在(文学、医学史研究)に遡ります。そこで、たまたま進誠堂を見学する機会があり、その作業工程に魅せられたのが始まりです。ドイツの方々にもこの工程を紹介したいという思いがつのりました。2017年に鈴鹿市文化会館での「墨と文学」イベントへの参加の折に多くの写真や資料を収集できたことから、今回の特別展では、鈴鹿と鈴鹿墨にスポットがあたりますが、墨の歴史という事で、奈良にも言及するつもりです。中心は墨の作ら方の紹介です。
では、簡単ではございますが、お礼にかえて。
梅雨の時節柄、どうぞご自愛下さい。
草々
ベルリン森鷗外記念館キュレーター
ベアーテ・ヴォンデ